夏休み恒例富士登山

三塚康典氏の酸素ボンベと登山効率に関する報告書
富士登山における携帯酸素ボンベの効果が詳細に報告されております(Exelのファイル付き)

●レポート1●
富士登山の情報いろいろありがとうございました。8/7-8/8の両日にわたり富士宮口から無事頂上を極めることができました。
お陰様で、体力の余裕はともかく、精神的な余裕をもって登山することができました。サポート本当に感謝しております。
さて、主題の「酸素ボンベの効果」の件ですが、結論からいいますと、5合目ぐらいから7合目までの3000m以下の高さでは、使用することにより高地に順応する時間が早くなるようです。
9合目(3500m)くらいからの高さについては、市販されているような小さなボンベでは、絶対量が不足し、吸入した直後はよいが、すぐにもとにかえってしまうようです。効果を上げるためには、酸素を吸い続ける必要があるでしょう。・・ザックをボンベだらけにして登山すれば可能でしょうが、実際にはそんなことは出来ませんね。

酸素ボンベの効果を見るために、アナログ的な表現でなく、客観的な数値で表そうと考え、カシオ製の脈拍計測機能のついた時計(指先をセンサー...発光ダイオードとその光を受けるフォトトランジスターでできている....に当て指先を流れる血液中のヘモグロビンの濃淡を検出する)を使用してみました。
酸素を吸入した後は、当然脈拍も下がるはずだと考えたからです。
実験のモルモットになってもらったのは、過去に5合目の駐車場まで遊びに来て早くも高山病のきざしが見えたうちのカミさんです。
 しかし、このもくろみは新7合目を過ぎるころからデーター計測不能となり、もろくも失敗しました。このとき、小生は、計測できるのに、カミさんはできないので、指先の当て方が悪いのではないかと考え何度も試みましたが、ダメでした。
小生も7合目に着くころは、計測データーが低く出るようになり、どうもうまくゆかないようになりました。原因は、脈拍計測方法にあったようです。すなわち、酸素不足により、ヘモグロビンの色が薄くなり、センサーが濃淡を判別できなかったようです。
 その証拠に下山してから、計測してみると、問題なく計測できました。
小生の歩行速度は、カミさんに合わせているため、非常に遅く、登山能率(勝手に命名したもの)は、
5合目〜新6合目87m/Hr (このmは、標高を表しています)
新6合目〜新7合目158m/Hr
新7合目〜7合目131m/Hr
というものでした。
特に、新7合目〜7合目の途中からは、非常に遅くなり、20〜25歩歩いては、ハアハア一休みという状態でいつになったら頂上に着くのか心配させられました。仕方がないので、伝家の宝刀である酸素を2〜3回吸わせたところ、次からは、休むまでが50歩となりました。良さそうなので、続いて2〜3回吸わせたところ、今度は休むまでが、120歩となりました。
 後は、ほとんど吸うことなく、快調なペースで歩き、遅れを取り戻しました。
 この結果をみると、初期なじみ(高山に対する)には、かなり効果があるようです。

●レポート2●
1)使用した酸素ボンベについて
  カミさんが比較的高度の低いところでも、高山病になる可能性があったので、次の仕様のボンベを、2本持参しました。
ガス量 8.5L(20℃)、ガス純度 95%、圧力9Kg/cm2
約2秒の使用で80-90回使用可能(実際は、すぐ吹き出し圧力が弱まってしまう)
ボンベ直径62mm,長さ280mm(山小屋で売っているものよりかなり長い)

1本目は、7合の宿を出るときまでに消費しました。小生の使用は、「なるほどこんなものか」という程度の使い方で、ほとんどカミさんが抱えて使っていました。2本目は、9-9.5合の間に消費したようで、頂上では殆ど残っていなかったようです。
 彼女に言わせると、9合目から上で、頭痛がしたときに吸うと頭痛は直ったとのこと。しかし、ハアハアするのは殆ど変わらなかったようです。頂上では、酸素が殆ど残っていなかったこともあり、頭痛と吐き気がしてどうしようもなかった由。小生は昼飯でも食べて下山しようかなと考えていたのですが、早く降りましょうとせっつくので、ついつられて下山したようなわけです。家に帰ってから「なぜ売店で酸素ボンベを買って来てくれなかったのか、そうすれば、お鉢巡りもできたはず」とのたまい、さんざ責められました。
考えてみると、8.5Lの酸素というのは、空気中の酸素21%、窒素79%として計算すると、約40.5Lの空気中に含まれる酸素量と同じです。 1回の呼吸で3.5L吸うと仮定すると、ボンベ1本の消費は、約12回分の呼吸で吸う酸素量と同じです。 これを後生大事に2時間も吸っていたのでは、量が足りなくなるのは当たり前で、誰に聞いても「効果はよくわからない」ということになるのでしょう。むしろ深呼吸をしたほうがまだましだということになりかねません。 そうは言ってもカミさんのような敏感な人は、瞬間的なその効果もはっきりしているようです。

●レポート3●
2) 登山データーから得られた教訓て(?)について 時間がなくてレポート作成が遅れました。 富士登山で得られたデーターをもとに、独断と偏見がありますが、私なりに解説してみたいと思います。
FUJI.XLS
富士登山データファイルを見る方は上記FUJI.XLSをクリック(三塚氏のLotusファイルをExelに変換)

 ・ワークシート(A) :富士登山記録(タイムスケジュール)
 ・ワークシート(B) :登山能力等一覧表および標点高度と高度差グラフ
 ・ワークシート(C) :登山能率のグラフ(2種類)

結果から記します。
1) 高度が上がるほど、登山能率は、落ちてくる。 また高度が高いほど、その落ち方は、大きい。
2) 途中の山小屋で1泊すると、短い時間ではあるが、高度の変化による酸素不足等にかなり順応してくる。またなかなか眠れないが、疲労もかなり回復する。
3) 空気温度の低い時の登山は、空気密度が大きくなるため、かなり楽になる。
  (試算では、7合目、約3000mの高度で、10℃温度が低くなると、2670mの地点…すなわち新6合と新7合の中間…にいるのと同じとなる。)
解説:
1)について
 総合登山能率グラフの新6合〜7合、8合〜頂上の2つのグループの能率の低下割合をみてみると、後者のグループの方が落ち方が大きい。
2)について
 総合登山能率グラフの7合〜8合の能率は、高度が高いにもかかわらず前日の新7合〜7合のときの能率よりもよくなっている。これは前日の疲労が回復したことに加えて、高所に順応してきたものと考えられる。もし高所への順応がないとすると、3000mぐらいの高度では、酸素の濃度が平地の70%ぐらいなので30分もしないうちに、急速に登山能率は落ちると考えられる。
3)について
 総合登山能率グラフの8合〜9合をみると、高度が高くなっているにもかかわらず、7合〜8合の時よりも能率が上がっている。これは、8合〜9合を歩いているときが明け方の5時〜6時の一番気温の低いときであったので、空気の密度が高く、1回の呼吸で、空気温度の高いときよりも多くの酸素を吸入できたからと考えられる。
 (高度が高くなったとき、能率が悪くなるのは、気圧のせいではなく、空気の密度がうすくなったからだという前提条件で)
空気の温度低下によりどのくらい空気密度が変化するか、おおざっぱに計算してみる

つぎの条件を仮定する。
  a) 3000mの高度で、昼の一番高い温度   15℃
  b) 3000mの高度で、明け方の一番低い温度 5℃
a) と b) を比較する
ボイルシャールの法則により   P1・V1/T1 = P2・V2/T2 ‥‥@
a) のとき
 空気圧=P1, 一定の空気体積=V1(L),    絶対温度 T1=15+273 =288(°K)
b) のとき
  空気圧(高度がa)と同じなので圧力も同じ)=P1,
 V1の空気体積が温度の変化によって収縮したときの体積 = V2 (L)
絶対温度 T2 = 5+273 = 278 (°K)
@ を変形して、 V2 =V1・T2/T1 = V1・278/288 = 0.965V1
すなわち、a) に比べ b) は、空気の体積が 96.5% となることがわかる。
つぎに、酸素比重量(密度)を調べる
V1 (L) に含まれる酸素の重量を、 α(g) とすると、このときの酸素の比重量
        ρ1=α/V1 (g/L) ‥‥ A
b) の状態の時、V1 と同じ体積に含まれる酸素の量は、
  α + 0.035V1・α/V1 = 1.035α(g)
比重量は、 ρ2=1.035α/V1 (g/L) ‥‥B
AとB を比べてみれば、b) の状態の時、酸素の比重量(密度)は、3.5%増えていることになる。 ここで注意しなければならないのは、温度が低くても高くても、ある人の吸い込む空気の体積は、一定なので、結果として、温度の低いときは、高いときに比べて、多くの空気を吸い込んでいることと同じになる。

一方、百科事典によると、標準大気の高度と気圧、気温、空気密度の関係は、
高度(m) 気圧(mb) 温度(℃) 空気密度(Kg/m3)
0 1012.6 15.0 1.225
2000 794.4 2.0 1.006
3000 700.6 -4.5 0.909

3000mのときの空気密度が 1.035倍になったとき、それに対応する高度をおおざっぱに計算してみると
1.035倍になったときの空気密度は、0.909 x 1.035 = 0.941
高度2000から3000になったとき、変化する空気密度は、0.097
高度2000mから空気密度が0.065(=1.006-0.941) 変化したとき、どのくらいの高度差に相当するか計算すると、
 0.065/0.097 x 1000 =670m
すなわち、約2670m の高度のところ(新6合と新7合の中間)にいるのと同じになる。
あとがき:
夫婦合わせて120歳になろうとする我々夫婦の登山は、普段健康であると自負していても、何が起こるかわからないと考え、富士登山に先立って、トライアルをしました。登った山は、丹沢の大山です。このとき、チェックしたのは、登山速度(脈拍数110-130にするには、どのくらいの速度が適当か)、靴、杖、下着、ザック、携帯する水の量などでした。
このとき、カミさんは、普段から膝が痛いなどといっており、当然のごとく杖を持参しました。小生は、まったくいままでその気はなかったので、杖なんかと馬鹿にして、使用しませんでした。登りは全く問題ありませんでしたが、下山の後半の石段が続くところで、膝がガタガタになり、家に帰ってから3日ほど、階段の上り下りにヒイヒイ言っていました。
この教訓をふまえ今回の富士登山では、一人2本の杖を持参ました。その効果あって、家に帰ってからも、小生もカミさんも、膝がどうのこうのということは全くありませんでした。いろいろな教訓をいただいた太田さんへのお礼をかね、小生の経験が同じ山登りを志す方の参考になれば、幸いです。

三塚氏のレポートに関するお問い合わせは、下記へお寄せ下さい。
yssk-mitsuzuka@mtc.biglobe.ne.jp


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